技術経営入門:4つのメリットと事業化を進める4つの手順を解説

 自社の技術力を活かして競争優位性を築けていますか?多くの企業が直面する研究開発の「死の谷」を越える鍵が技術経営(MOT)です。技術と経営戦略を結びつけ、イノベーション創出を加速させる考え方を指します。

 本記事では、技術経営の基礎知識や具体的な4つのメリット、導入のための4ステップを取り上げます。注意すべき「イノベーションのジレンマ」にも触れ、持続的な成長へのヒントもご紹介いたします。

技術経営(MOT)の概要

技術経営(MOT)は、Management of Technologyを略した言葉です。自社の技術力や知識資本を活用して、新しい技術開発やイノベーションを生み出す経営スタイルを意味します。

技術経営が指し示すこと

技術経営は、「技術力を基盤とした経営」と言い換えることもできます。企業が持つ科学技術や工学知識を、経済的な価値を持つ新規ビジネスや新商品へどう転換するか、あるいは既存技術をどう強化するかの戦略を構築する考え方です。技術を中核とする製造業で特に有効な経営手法となります。研究開発への投資額は大きいものの、技術が事業化や製品化につながりにくい日本の現状を考慮すると、導入が推奨される考え方です。実際に、欧米諸国では技術経営はすでに重要視され、技術開発や事業開発の効率化、管理に役立てられています。

技術経営の発展経緯

技術経営は、1981年にマサチューセッツ工科大学のビジネススクールで始まりました。修士号を取得可能なコースとして“Management of Technolgy(MOT)”が設置されたのが起源です。1980年代のアメリカでは、日本の製造業の成長による自国の国際競争力低下が問題視されていました。技術経営プログラムがアメリカ国内で広がるきっかけとなったと考えられます。日本では2002年度から経済産業省主導の「技術経営人材育成プログラム導入促進事業」が開始され、アメリカより約20年遅れて技術経営の導入が始まりました。

技術経営が重要視される理由

情報通信技術の発展などでグローバル化が進む現代では、経済環境が急速に変化し続けています。開発された技術はすぐに一般化(コモディティ化)しやすいです。類似の製品が市場にあふれ、技術や市場の変化速度自体も非常に速くなっています。厳しい状況下で新たな市場を開拓するためには、新規性の高いコンセプトを発見し、技術やアイデアといった形のないものから価値を創造していくことが必要です。技術を向上させるだけでなく、ビジネスモデルの再検討や市場・顧客への深い理解がなければ、ビジネスでの成功は困難でしょう。

現代の技術は細分化し、高度になっています。そのため、自社が持つ技術をポートフォリオとして管理することも不可欠です。特に日本では、「死の谷」(研究成果が事業化に至らない状況)に陥る研究開発テーマを持つ国内製造業が約8割に上るという調査結果もあります。このことは、研究開発の成果を有効活用できていないケースが多い状況を示します。

技術経営を取り入れると、技術と経営を結びつけた管理が可能となります。イノベーションの創出や技術活用の最大化が期待できるのです。

技術経営を導入する利点

技術経営では、自社の技術を起点として事業を考え、研究の成果を経済的な付加価値へと転換できます。技術経営を導入する具体的なメリットを紹介します。

進むべき方向や経営方針の明確化

技術経営は、自社の技術という資産を活用することが基本です。技術の棚卸しなどを実施して経営戦略を策定します。その結果、自社が力を入れるべき製品やサービスが明らかになり、今後の経営方針も定めやすくなるでしょう。

技術革新や市場変化の速さに対応しようとして、計画性のない新規事業開発を行ったり、曖昧な戦略で多角化経営を進めたりすると、既存の成功事業にも悪影響を及ぼす危険があります。市場競争で生き残るための戦略が立てやすくなることは、大きな利点です。

企業競争力の強化

技術経営の導入によって、技術を基礎とした経営戦略を一貫して策定できるようになります。研究開発と事業化・産業化といった段階間の断絶を防ぎ、より高品質な製品やサービスの提供が可能になる見込みが高まります。戦略的な研究開発が進めば、イノベーション創出や事業化の効率も向上し、企業の競争力強化に貢献するでしょう。戦略的にノウハウや知識が蓄積されることは、業務効率の改善やコスト削減といった現場レベルの利点だけでなく、企業全体の資産として大きな価値を持ちます。

収益向上の実現可能性

技術経営では、自社の技術力を高度に活用します。技術と一貫性を持つ経営戦略に基づき、新たな価値を持つ製品やサービスを開発していきます。従来の日本の研究開発スタイルと比較して市場ニーズに合致する可能性が高く、結果として企業の利益率向上にもつながるでしょう。

事業の立ち上げや研究開発のプロセスについても、全体を見据えた上で戦略を策定します。各段階で効率化を進めるため、時間的にも経済的にもコスト削減が可能です。この点も収益向上に良い影響を与えます。

新規事業創出の促進

技術経営を導入する主な目的は、急速に変化する市場に対応する力を獲得することです。さらに、技術力を向上させ、市場での競争力や優位性を高めることも目指します。技術経営は技術に着目するため、中核技術の発展や他の技術との組み合わせが期待でき、新しい製品・サービスの研究開発につながりやすいです。競争力向上のためには新規事業の創出も重要ですが、技術経営によって技術を成長・発展させる研究開発への投資効率を最大化します。これにより、新規事業に投入できる資金や人材を確保しやすくなります。価値ある新規事業を創出するための環境を構築できる点も、技術経営のメリットです。

技術経営の導入ステップ

実際に企業経営へ技術経営をどのように取り入れるか解説します。研究開発の立場にいる方も、考え方を新たにするだけで現在の研究に活かせる可能性があります。

技術的な強みを特定し、経営の軸を定める

技術経営を実際に導入するためには、まず自社の技術的な強み、つまりコアコンピタンスを明確にすることが不可欠です。自社に固有で、他社との差別化を図る上で最も重要なコアコンピタンスを把握し、自社の経営の軸を決定することが最初のポイントとなります。

技術経営のためには、自社技術について詳細に管理・マネジメントを行う必要があります。例えば、保有する知的財産に加え、現在特許化せずにブラックボックス化している技術などの知的財産権についても戦略的な管理が求められます。自社の強みを維持しながら注力する分野を見定めることで、新たな価値を生み出せるのです。

自社のコアコンピタンスを検討する際には、「模倣可能性」「移転可能性」「代替可能性」「希少性」「耐久性」という観点から内部資源を見直すことが重要です。コアコンピタンスの見極めを誤ると、人材や資金といった資源の分散、技術発展機会の損失など、事業経営にマイナスの影響が出る可能性があるため注意が必要です。

 必要となる人材の確保

技術経営を実践するには、人材確保も重要です。技術経営の考え方に基づいた経営・ビジネスの知識、実践力、ノウハウを持つ優秀な人材がいなければ、迅速な導入や実践は困難です。技術経営も経営学の専門分野の一つであるため、MBA(経営学修士)取得者やコンサルタント経験者などが適任であり、スムーズな導入に不可欠と言えます。ただし、1980年代から技術経営プログラムが発展したアメリカなどと比較して、日本国内では該当する人材自体が少ない点に留意すべきです。

プロジェクトチームの組成

技術経営の実践に必要な人材を中心に据えたプロジェクトチームを組成し、実際に戦略策定を進めます。チーム構築だけでなく、組織全体の再編成が必要となる場合もあります。組織再編では、既存人材の配置転換に加えて、中途採用など外部からの人材確保も検討すべきです。人材以外にも、技術面で外注や他社との協業などを活用し、自社だけで補完できない場合は広い視野で検討することが求められます。技術を核として経営を進める観点から、技術の継続的な成長だけでなく、社内共有や技術活用、開発ができる人材の社内育成という視点も重要です。

目標値設定と行動計画への具体化

上記のプロジェクトチームが中心となり、技術経営に基づいた経営戦略を策定します。経営方針に反映させた後、実際の中長期経営計画を作成してください。注力する自社技術や分野など、今後の事業の方向性やリソース配分を具体的な目標や数値で設定し、行動計画へと落とし込みます。中期的な目標達成度の確認はもちろん、短期経営計画を作成して、より短い間隔で見直すことが適している場合もあるでしょう。重要なポイントは、定めた期間内での成果を確認し、課題を抽出して、都度フィードバックを行い計画を最適化していくことです。

イノベーションのジレンマについて

イノベーションのジレンマは、ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した概念です。イノベーションが遅れる要因を説明する考え方となります。企業が顧客の声に耳を傾け、既存製品の改良やサービス提供に注力することで、破壊的なイノベーションへの対応が遅れ、結果的に失敗を招くというものです。以下の3つの理由が挙げられています。

①破壊的技術は初期に製品性能を低下させること

開発初期段階では、イノベーションの基盤となる技術が未確立なことが多いです。そのため、効率的な開発が難しい可能性が高く、破壊的な技術を導入すると一時的に製品性能が低下する場合があります。このことから、既存技術で成功している多くの企業は破壊的技術への関心が低く、イノベーションの遅れを招く一因とされています。

②技術進歩の速度が市場の需要を超えること

技術革新のスピードは、市場ニーズが形成される速度よりも速い場合があります。そのため、企業が開発した革新的な製品が必ずしも市場にすぐに浸透するとは限りません。性能が高すぎる新製品よりも、市場ニーズを適度に満たす新製品の方が市場シェアを獲得することがあり、これがイノベーションの遅れにつながると考えられています。

③既存企業と破壊的技術のビジネスモデルに差異があること

破壊的技術の導入が、大手企業の理想とするビジネスモデルと異なる場合、既存技術で成功している企業は参入の好機を逃すことがあります。大手企業の不参入が、イノベーションの遅れを招く要因になると指摘されています。

成長過程にある多くの企業は、革新的な技術やビジネスモデルで市場シェアを獲得してきました。しかし、業界大手になると既存の権益を守ろうとし、革新性を失ってしまうことがあります。最先端の革新的な新技術を開発しても成功に結びつかない状態も含めて、一般的にイノベーションのジレンマと呼ばれます。

まとめ

技術経営(MOT)とは、自社の技術や知識を活用し、経済的価値を創出する経営手法です。米国で生まれ、日本では2002年以降、導入が進んでいます。急速な環境変化に対応するために戦略的な技術活用が求められ、企業の競争力強化や収益向上、新規事業の創出に役立ちます。一方で、イノベーションが遅れる原因として「イノベーションのジレンマ」に注意が必要です。

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*ワークアズライフは、落合陽一氏著「超AI時代の生存戦略」から引用。

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*ワークアズライフは、落合陽一氏著「超AI時代の生存戦略」から引用。